逃げるは楽だが己を無くす【第5話】後半

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闇カジノの恐怖から命からがら逃げ出し、

パチンコからも距離を置いた俺は、その後、夜の世界へ飛び込んだ。

県中心の繁華街のホストクラブ。

ホストを始めた一番の理由は、

「消費者金融で限度額MAXまで借りた借金を返すため」だった。

(※ギャンブルでも多少使ったが、大半は見栄と女遊びと浪費によるものだ。その地獄絵図はまた別の機会に詳しく語ろうと思う)

昼夜逆転し、酒と金と女が渦巻く狂乱の世界。

毎日が極限のプレッシャーと見栄の張り合いだったホスト時代は、

皮肉にもギャンブルに手を出す暇など1ミリもなかった。

だが、身体と心をすり減らし、ホストの世界から逃げるように足を洗って地元へ戻った時、

俺の元には何のスキルも、定職も残っていなかった。

食い繋ぐために、繋ぎとして入った工場派遣の仕事。

夜勤もあり、残業も限界まで詰め込まれた過酷な労働環境だったが、

それなりに手取りの給料は良かった。

普通なら、ここで真面目に生活を立て直すはずだ。

だが、馬車馬のように働いて手にしたまとまった金をポケットに入れ、

ぽっかりと空いた休日に再会したのは──

あの、高校時代からの「ギャンブルの友人」だった。

「最近『競艇(ボートレース)』が面白いんだよ」

友人のその一言で、封印されていた俺のギャンブラーの血が、再び激しく沸騰した。

競馬や競輪と違い、競艇はわずか「6艇」で争われる。

組み合わせが少ない分、当たる確率は高く見える。

さらに、1マークの攻防わずか数秒で勝負が決まる圧倒的なスピード感。

レートも、賭け金も、すべて自分次第。

何の知識もデータもなく、ただ「己の直感」だけを信じて舟券を買い続けた俺が、

破滅しないわけがなかった。

平日は工場の機械のように働き、

休日は朝から競艇場へ直行して、汗水垂らして稼いだ給料を水の上にばら撒く。

そんな地獄のようなサイクルを1年も繰り返した頃、

手元には何一つ残っていなかった。

貯金ゼロ、思い出ゼロ。

ただ、二度と戻らない20代半ばの最も貴重な青春の時間を、

丸ごとドブに捨てていただけだった。

そして、俺の人生で最も荒れ狂っていた、暗黒の休日がやってくる。

その日の俺のスケジュールは、今思い出しても背筋が凍るほど狂っていた。

 午前:

朝イチからJRAの競馬場へ乗り込み、第1レースから馬券を買う。

 レースの合間:

馬が走るのを待つ間、スマホの画面を開いて全国の競艇場へネット投票でBET。

 午後:

競馬ですり減らした財布を握りしめ、その足ですぐさまパチンコ屋へ直行。

 パチンコ中:

右腕でパチンコのハンドルを捻りながら、左手のスマホでネット競艇をポチポチと連打。

 夜:

競艇のナイターが終わると、休む間もなく最後の砦である「競輪(ミッドナイト)」へログイン。

競馬、競艇、パチンコ、競輪。

朝起きてから深夜ベッドに入るまで、目に入る全ての光景に金を賭け続ける、

救いようのないギャンブル中毒の成れの果て。

完全に目は血走り、魂は抜け落ち、

自分が何のために生きているのかすら分からなくなっていた。

後悔しても、しきれない。

失った大金も痛いが、何よりも悔やまれるのは、

「二度と戻らない、若くてエネルギーに満ち溢れていた時間」だ。

あの時間と金を、もっと自分の将来や、有意義な経験に使っていれば、

今の俺の人生は全く違うものになっていたかもしれない。

だが、そんな俺のギャンブル狂乱の旅路は、ある日あっけなく幕を閉じた。

大金を注ぎ込み、借金を重ね、時間をドブに捨て続けた果てに、

俺の頭の中にスッと降りてきた、たった一つの残酷な真実。

「……あぁ、俺には根本的に、博才がねぇんだな」

あまりにも当たり前すぎるその事実に、

何百万もの金と何年もの歳月をかけて、ようやく骨の髄まで気づいたのだ。

その瞬間、俺の脳内を支配していた熱狂は、サーッと音を立てて冷え切っていった。

今となっては、笑い話にするしかない。

本当にアホで、間抜けで、救いようのない男だったと心から思う。

あれ以来、たまに付き合いでパチンコ屋に入ることはあっても、

千円札を1枚入れた時点で、「あぁ、無駄だな」と虚しくなってすぐに席を立つようになった。

それでいい。

いや、それがいいのだ。

ギャンブルという文化そのものを全否定するつもりはない。

だが、俺にはその才能が1ミリもなかった。

それだけが、俺が長い時間と莫大な授業料を払って得た、人生で唯一の教訓だ。

ハンドルを握りしめ、軽バンで荷物を運んでいる今の俺は、

汗水垂らして稼ぐ1円の重みを、誰よりも知っている。

皆さんも、ギャンブルはどうか程々に。

合掌

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